セミナー

角丸四角形:  第10回 セミナー

日時

2011715日(金)17:00-18:30

場所

静岡大学 理学部 B212号室

講師

三輪 京子 博士

 

北海道大学 創成研究機構

演題

植物のホウ酸輸送体の機能分化と栄養ストレス耐性植物の作出

 

 

 植物は土壌中から無機元素(ミネラル)を吸収し、自身の栄養として利用し生存している。土壌からの無機元素吸収は植物が生産者として働くための基盤のプロセスであり、植物は進化の過程で必須元素の選択的な吸収と有害元素の排出や隔離、解毒のしくみを発達させてきた。

 ホウ素(B)は植物の必須元素のひとつであり、細胞壁ペクチン質多糖をエステル架橋して細胞の強度維持や細胞接着に働いている。一方、高濃度のホウ素は生物一般に毒性を示す。実際、農業現場におけるホウ素欠乏・過剰による作物の生育障害の発生は世界で報告されている。

 植物は細胞のホウ素濃度を適切な範囲に保つ必要があると考えられるが、どのように体内/体外のホウ素を感知し、ホウ素濃度を調節しているのであろうか。本セミナーでは、シロイヌナズナから同定されたホウ酸輸送体の機能と発現制御、ストレス耐性向上への応用について紹介したい。

 

【対照的な生理機能をもつホウ酸輸送体BOR1BOR4

 長い間、ホウ素は受動拡散によってのみ輸送されると考えられてきたが、シロイヌナズナ変異株より排出型ホウ酸輸送体BOR1が同定された。BOR1は細胞膜に局在し、低ホウ素濃度条件下において生育に必要なホウ素を導管へ積み込む役割を担っていた(1)。一方、シロイヌナズナに存在するBOR1の相同タンパクBOR4BOR1と同様に排出型ホウ酸輸送体であるが、高ホウ素濃度条件で根からホウ素を排出しホウ素過剰による毒性緩和に寄与するという、BOR1とは対照的な生理機能をもつことを明らかにした(2)

 

【ホウ素条件に応答した5’UTRを介したBOR1の翻訳制御】

 低ホウ素濃度条件で働くBOR1は転写後制御を受け、高ホウ素濃度条件ではBOR1タンパクの蓄積が低下する。この応答は、高ホウ素条件下で過剰なホウ素を地上部へ送ることを防ぐためのものと考えられる。転写後制御の一つの機構として高ホウ素濃度条件における5’UTRを介した翻訳抑制を見出し、変異導入解析より5'UTRに存在するupstream ORFが発現制御に関与することを明らかにした。

 

【ホウ酸輸送体の発現上昇によるホウ素欠乏・過剰耐性の向上】

 ホウ素欠乏・過剰土壌地域では、欠乏・過剰耐性品種の開発が一つの品種改良の課題となっているが、関与する分子は不明であった。ホウ酸輸送体BOR1BOR4の高発現によりシロイヌナズナにそれぞれホウ素欠乏、過剰耐性を付与することに成功し、分子育種への道を開いた(2,3)

 

1) Takano et al., Nature, 420, 337-340 (2002).

2) Miwa et al., Science 318, 1417 (2007).

3) Miwa et al., Plant J. 46, 1084-1091 (2006).