セミナー

角丸四角形:  第5回 セミナー

日時

2010423日(金)17:00-18:30

場所

静岡大学 理学部 B212号室

講師

宮城島 進也 博士

 

理化学研究所基幹研究所宮城島独立主幹ユニット

演題

植物細胞による葉緑体分裂制御機構から細胞内共生と進化を探る

 

 

 真核細胞内で、光合成を行う葉緑体、細胞内呼吸を司るミトコンドリアはそれぞれ、シアノバクテリア、αプロテオバクテリアが10−20億年前に真核細胞に共生することによって生じたと考えられている。両オルガネラは、真核細胞内で分裂することにより増殖し、絶えず増殖する細胞内に維持されている。その分裂機構、分裂制御機構を解明することは、宿主真核細胞が独立生活していた原核生物を、その分裂を制御することによって、いかにして細胞内小器官へと変換したのか、また現在、真核細胞社会の中で、如何にして維持しているのかを理解するために重要である。

 分裂機構の遺伝子、タンパク質レベルでの理解は、私のこれまでの研究を含め、私の所属した日本と米国の研究室により、最近ようやく理解され始めた。葉緑体は祖先のシアノバクテリアが持ち込んだFtsZリングを中心とする原核型の分裂機構と、宿主真核生物由来であるPDリングおよびダイナミン様タンパク質からなるリングがこの順に形成されて分裂する。一方のミトコンドリアにおいても、葉緑体と同様にFtsZMD(これら二つは動物、植物からは失われている)、ダイナミンリングがこの順に形成されて分裂することがわかってきた。

 我々研究室の研究目的は、バクテリアが細胞内小器官へと変換される過程で、分裂機構がどの様に改変されたのかを解明し、真核細胞がオルガネラ獲得のために取った戦略を理解することである。そのために、具体的には、真核型タンパク質の同定、解析、その進化課程の理解、及び、これまでに全く分かっていない分裂の制御機構とその変遷の理解を目的とする。進化、変遷という時間の軸での理解が不可欠であるため、進化系統学、細胞生物学を組み合わせた研究を進めてきた。これまでに、特に葉緑体に着目した研究により、以下のことを明らかにしてきた。

(1)葉緑体、ミトコンドリア分裂に関与するダイナミンはそれぞれ、真核細胞のサイトキネシス機構から派生して進化した。このことは、オルガネラ分裂機構が、バクテリアと真核細胞のサイトキネシス機構の両方から成立したことを示唆する(2)細胞内に葉緑体を1ないし数個しか持たない藻類においては、細胞周期に依存した分裂遺伝子群の発現により、分裂時期が制御されていること。一方で、細胞分化によって細胞あたりの葉緑体数、葉緑体のサイズが変化する陸上植物は、PDV1PDV2という新たな分裂装置構成因子を獲得し、これらが分裂律速分子として働くことで、分裂速度が調節されていること。(3)植物に特異的なタンパク質MCD1がシアノバクテリア由来のMinタンパク質と協調して、葉緑体分裂位置を決定していること。ダイナミン、PDVが葉緑体の外側(細胞質側)で機能するのに対して、MCD1は葉緑体内部で働くことがわかった。

 現在、比較ゲノムにより同定した、藻類、植物に共通する機能未知葉緑体タンパク質群の中から、新たな葉緑体分裂タンパク質の同定を試みている。また本講演では、進化生物学と細胞生物学を組み合わせた研究手法の確立へ向けての、取り組みについても紹介する。