セミナー

角丸四角形:  第9回 セミナー

日時

2011415日(金)17:00-18:30

場所

静岡大学 理学部 B211号室

講師

村田 紀夫 博士

 

基礎生物学研究所 名誉教授

演題

植物のストレス耐性を支配する遺伝子

 

 

環境ストレスと植物: 植物は地球上の様々な地域で、低温・高温・乾燥・高塩濃度、等のストレス条件に曝されながら生育している。この植物の能力によって、地球上の全ての生物の生存が可能になっている。植物はどのようなメカニズムで環境ストレスを克服しているのか。今回は、このテーマに関する研究の一部を、出来るだけ解りやすく解説するつもりである。

耐寒性を支配する遺伝子:熱帯性の植物は寒さに弱い。当たり前のように思えるけれど、「なぜ」なのか。Raison達は「生体膜の脂質に低温感受性の原因がある。」という仮説を提唱した。多くの研究者がこの仮説を証明しようとして、低温感受性植物と低温耐性植物から膜脂質を抽出して分析をおこなった。しかし、脂質成分と低温感受性との間には相関関係が見つけられなかった。我々は「相関関係が見つかるまでは分析をやめない。」という覚悟の下で脂質を徹底的に分析し、ついに、植物脂質としてはマイナー成分であるフォスファチジルグリセロール(PG)の脂肪酸組成と低温感受性との間に相関関係が成り立っていることを発見した。

 しかしながら、このような相関関係からは「PGの脂肪酸組成が植物の低温感受性の原因物質である」かも知れない、という仮説を提示することが出来ても、それを証明したことにはならない。そこで、我々はPGの脂肪酸組成の異なる遺伝子組換植物を作成することによって証明することにした。まず、PGの脂肪酸組成を決定する酵素グリセロールリン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)を低温感受性植物のカボチャの子葉から精製し、次にその遺伝子を単離し、これをタバコに導入した。この遺伝子組換タバコではPGの脂肪酸がより飽和化し、しかも低温感受性になっていた。また、低温耐性植物シロイヌナズナから単離したGPAT遺伝子を導入した組換タバコでは、PGの脂肪酸組成がより不飽和化し、低温耐性になっていた。このようにして、膜脂質と低温感受性との関係を証明することができた。それまでは、植物の低温感受性と低温耐性の違いは複雑な代謝ネットワークの違いによると考えられていた。しかし、一個の遺伝子の改変でストレス耐性を改変出来ることが判ると、研究者達の考えは一変し、ストレス耐性遺伝子群を捜す研究競争が始まった。その結果、数百に上る「ストレス耐性遺伝子」が次々と発見されるに至った。

グリシンベタインは優れた環境耐性因子:これらのストレス耐性遺伝子を改変した組換植物は、ストレス耐性能を獲得しているが、その多くはストレスのない環境下においては矮性だったり、不稔性だったりして、マイナスの効果を示した。我々は、以前に、グリシンベタイン(以下、ベタイン)が葉緑体の光合成反応を高塩濃度下において安定化することを見つけていたので、この適合溶質を導入した組換植物を作成することにした。まず、コリンをベタインに変換するベタインオキシダーゼの遺伝子を土壌細菌Arthrobacterから単離し、塩感受性のシロイヌナズナやトマトに導入した。組換植物はベタインの合成が出来るようになり、塩耐性と低温耐性の能力を獲得していた。しかも、この組換植物では、ストレスのない条件下において、植物体が大きくなり、花の大きさが約2倍になり、種子の数が30%増加した。

今後の研究課題:これらの研究により、植物のストレス耐性、ストレス感受性にはいろいろな酵素・遺伝子が関わっていることが解って来た。今後は、これらの因子間の相互作用を明らかにし、より統一的な理解を得るための研究が求められている。