セミナー

角丸四角形:  第25回 セミナー

日時

2017628日(水)17:00-18:30

場所

静岡大学 総合研究棟 4414号室

講師

河野 優 博士

 

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻

演題

可視光変動光が光合成に与える影響と遠赤色光による補光効果

 

 

 自然環境下では様々な周期で光の強度や波長組成が変動する(変動光)。上空に障害物のない裸地でさえも、光強度が太陽の日周運動のみによる変化を示す日は、年数日程度しかない。林の下層部(林床)の光環境は、さらに複雑な変動を示す。植物は生育場所や季節によって異なる変動光環境に適応しているはずである。光合成に利用できない過剰な光(強光)は、光合成系に傷害を与える(光阻害)。それに対して、植物は光合成系を守る機構を有している。チラコイド膜ルーメン側のpHの低下に応答して起こる、光化学系IIPSII)の光捕集アンテナ内での熱散逸、シトクロームb6/f複合体での電子伝達の抑制や、酸素への電子の流れを防ぐ光化学系IPSI)での循環的電子伝達経路(CEF-PSI)、活性酸素の消去系などの代替的電子伝達経路がよく知られている。これらは、連続強光下でPSIIの保護に効くことが確認されている。一方、PSIは強光を当て続けても傷害を受けない。ところが近年、変動光がストレス要因になりうることが分かり、植物の応答とともにその重要性が注目されつつある。

 強光に高い感受性を示すPSIIに対して、PSIは変動光に対しては感受性が高く、PSI光阻害が起こりうる。PSI光阻害回避には、PSIの電子受容側の電子伝達の律速を小さくして有害な活性酸素の生成を防ぐことが重要なので、上記の保護機構の関与が提唱されている。シロイヌナズナやイネは、それらの防御系を有しているにもかかわらず、PSI光阻害が起こる。実験室内で示されているこれらの結果に反して、野外でのPSI光阻害の報告例はほとんどない。

 太陽光には、400 – 700 nmの波長の光(光合成有効放射)だけでなく、遠赤色光(FR光)も豊富に含まれているが、光合成研究では、長らくFR光は無視される傾向にあった。確かに、生育光として定常光にFR光を補光した場合、光合成装置の量的変化をほとんどもたらさない。しかしながら、PSIFR光によって優先的に励起されるため、光合成電子伝達系の活性はFR光の有無によって変わる。このことは、これまで可視光や単色光の下で測定されてきた変動光に対する応答や阻害は、野外植物の正しい応答を反映していない可能性を強く示唆している。実際、発表者は、顕著にPSI光阻害を起こす可視光変動光のバックグラウンド光として一定強度のFR光が存在すると、PSI光阻害がほぼ抑えられることを見出している。野外で採取した植物でも、程度は生育光環境や種に依存して異なるものの、可視光変動光処理によってPSI光阻害が起こった。しかし、FR光の補光によってPSI光阻害は完全に抑えられた。これらの結果は、光阻害の回避はFR光の存在下で最も効果的に実現されることを示唆している。セミナーでは、変動光が光合成に与える影響と、CO2吸収やO2発生に直接関与しないFR光による光合成系の効果的な調節について紹介する。