セミナー

角丸四角形:  第23回 セミナー

日時

2016518日(水)16:00-17:30

場所

静岡大学 総合研究棟 4412号室

講師

大森 正之 博士

 

東京大学 名誉教授

演題

地球の生命、宇宙の生命 −藍藻のcAMP信号伝達系から考える−

 

 

 地球は生命で溢れている。特に風薫る新緑の季節、人は皆生命を実感する。しかし、近くの月も金星も、火星も生命の存在すら見出しにくい。木星の惑星にはひょっとしたら・・・?何故って水があるらしいですから。太陽系を飛び出しても水さえ見つかれば、ひょっとしたら・・・? 水って不思議ですね。地球に水が出現したのはおよそ39億年前。その直後に生命らしきものが存在したのではないかと言われている。はっきり生命と呼べるバクテリアが生まれたのはおよそ30数億年前であろうか。そんな古い歴史を持つバクテリアの中に藍藻(シアノバクテリア)がいる。地球上で最初に光のエネルギーで水を分解し、その時得られる還元力(電子)で、ガス体の二酸化炭素を還元し、有機物すなわち我々の体の構成物質を作ることに成功した。なんともすごい能力を開発したものである。

 この藍藻は今も地球上のいたる所に生息しており、長い間の地球環境の変化を生き抜いてきただけに、素晴らしい生命維持装置をもっている。その一つにcAMPを媒体とする情報伝達機構(cAMP信号伝達系)がある。それってなんなの。 実は私たちの体の血糖値の調節機構そのものなのだ。このメカニズムが崩れると、私たちは糖尿病になったり、低血糖症になったりする。では藍藻も糖尿病になるというのか。生育の悪い藍藻は培地に糖を分泌するので培地が甘くなるなんてことは聞いたことはない。藍藻での機能はちょっと違い、cAMP信号伝達系は、光環境を含む環境情報を伝える手段として使われている。地球上で初めて植物型光合成を始めた生物としては当然のことかも知れない。ちなみに私たちが光を感じるのはcGMP信号伝達系による。

 藍藻に光応答cAMP信号伝達系があるなどと言うことは、誰も考えていなかった。むろんこの私も。ところが藍藻細胞内のcAMP 量を調べる過程で、光のみならず様々な環境変化に対応して、cAMP量が顕著に変動することが明らかとなった。これは大変だぞと、そのメカニズムを解明すべく、いろいろな実験を行い、当時は新しかった分子生物学的手法を用いることによって、cAMP合成酵素の遺伝子を見つけることができた。その時の苦労話は皆さんの研究の何かのお役に立つかも。さて、遺伝子の構造解析から、藍藻は何種類ものアデニル酸シクラーゼを持っていることが判明した。それは何を意味するか。きっと異なる環境変化に対応して異なるアデニル酸シクラーゼ系が活動するのだろう。例えば、青い光は運動を促進することがあるが、ある特定のアデニル酸シクラーゼ遺伝子を破壊すると、青色光による運動の促進は見られなくなる。cAMP信号伝達系は光以外にも、pHや酸素濃度などの環境変化に対応する非常に大事な信号伝達系であるが、このような複雑な調節機構がはるか太古の時代に完成しており、それが進化の過程で私たちヒトにも伝えられてきたのだろう。もっとも、高等植物ではその存在が疑われているのは何故だろう。動物と植物の生きざまの違いに根差しているのかも知れない。情報処理機構の生物による違いは、生命そのものの多様さ、奥深さ、不思議さにつながっているように思えてくる。